大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(う)1209号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

昭和五五年に入り、東京地裁において、四件の直接国税ほ脱事件の行為者に対し懲役刑の実刑判決が言い渡されたが、これらの事件はいずれも被告人から控訴されており、控訴審でも実刑判決が維持されるか否かが注目されていた。本件はそのうちの一件につき、刑期につき若干短縮(一審判決の懲役一年を懲役八月とした)したものの、控訴審がはじめて実刑判決を維持する旨の判断を示したものである。

【判旨】

所論は、要するに、原判決が刑の執行を猶予しなかつたことを非難し、被告人の反省の程度その他本件の犯情に照らすと、原判決の量刑は重過ぎて不当であり、被告人に対しては刑の執行を猶予するのが相当であるというのである。

そこで、調査すると、本件は、被告人が洋品雑貨の販売を目的とする株式会社マルセの取締役として、実質上同会社の業務全般を統括していた際、同会社の業務に関し、昭和五二年から同五四年までの各一月三一日を決算日とする各事業年度の法人税確定申告にあたり、売上の一部を除外して簿外預金を設定するなどし、右各事業年度の所得合計一億三三二五万一三六七円の全額を秘匿したうえ、欠損が生じ又は所得が零であつて、いずれも納付すべき法人税はない旨の虚偽の各法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、同会社をして右各事業年度における正規の法人税額合計五〇七二万四一〇〇円を免れしめたという事案である。このような脱税の行為は、国家財政の基盤を侵蝕する行為であるにとどまらず、担税力に応じて公平に納税義務を負う国民のもつ租税均衡負担の利益を侵害する反社会的な行為であるといわねばならない。そして、本件の脱税は、その額が少なくないばかりでなく、所得秘匿の割合及び脱税の割合がともに一〇〇パーセントであるうえ、その態様も、日常の取引で常々継続的に売上の一部を除外して簿外に貯蓄し、計画的に所得を秘匿して虚偽過少の確定申告を繰り返した犯行であること、右会社は、昭和四〇年ころより被告人の経営していた個人企業を承継し、昭和五一年二月一〇日設立された小規模の企業体であるが、被告人が、これを意のままに経営し、右脱税の発案実行においても、会社代表者である妻に指示をし、その中心となつていたこと、しかも、被告人が個人企業時代の昭和四九年七月所得税法違反罪により懲役四月及び罰金五〇〇万円、二年間懲役刑の執行猶予に処せられ(同年七月二五日確定)、昭和五〇年にも所得税の過少申告の疑いで査察を受け、結局昭和四二年度分から同四九年度分まで、連続して所得税の過少申告による修正申告を余儀なくされ、再度反省の機会を与えられながら、かえつて当局の査察に対する反発をつのらせて、法人成りの当初三事業年度の法人税について、敢えて本件の脱税を犯したものであることを併せ考えると、被告人の本件犯行は、その犯情が悪質で、厳しい社会的非難に値するものであり、後記の被告人のため酌むべき事情その他所論の指摘する諸事情を考慮しても、被告人の刑事責任は重大であるといわねばならず、本件は刑の執行を猶予すべき条件ではなく、被告人を懲役一年の実刑に処した原判決の量刑は、その刑期の点を除き、相当であるといわねばならない。しかしながら、その刑期の点について再考してみるに、本件の脱税額が、近時の同種案件の脱税額に比べれば、必ずしも巨額とまではいえないこと、被告人は個人企業時代及び会社設立後を通じ、その家族とともに質実な家庭生活を営み、健康にすぐれない被告人及び妻の将来を案じてひたすら蓄財に走つたことが本件の背景となつていること、被告人は、税金関係以外には全く前科はなく、真面目な一市民で、現在では本件の行為を深く反省し、逋脱した法人税の諸税及びこれに連動する地方税の諸税の合計約一億〇五一三万円を完納していることなどに徴すると、原判決の量刑のうち、刑期の点は重きに過ぎるものと認められるから、この限度で論旨は理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書にのつとり当裁判所において、被告事件について更に次のとおり判決する。

原判決の認定した各罪となるべき事実に被告人の関係で適用した法令(但し、法人税法を昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法と読み替えたうえ、同改正法附則第五条を加える。)を適用処断した刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中四〇日を右刑に算入することとし、主文のとおり判決する。

(堀江一夫 杉山英巳 浜井一夫)

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